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随想録

臨床泌尿器科編集後記Vol.69.No.12, 2015

 Evidence-based medicineという言葉が一般化し、最近10数年の間に各学会が、標準化治療を目的としたたくさんのガイドラインを作成しています。数多ある論文が作り上げたエビデンスを元にして、各分野のエクスパートが執筆をされているので、非常に勉強になりありがたいものです。また、学会が社会に発信するツールという意味でも、ガイドラインは必要不可欠なものと考えます。

 私も本年4月に発刊された、過活動膀胱診療ガイドライン第2版の作成委員にご指名いただきました。前立腺肥大症に合併する男性の過活動膀胱の薬物治療について担当させていただき、膨大な論文を読み、エビデンスレベルや推奨グレードを決める過程に携わりました。自分の専門分野であるものの、新しい発見もあり、学問的にも社会的にも大変勉強になり、この機会をいただいたことに大変感謝しています。

 その一方で、ガイドラインは、使い方や理解の仕方を間違えることにより、ある種の弊害が生じるのではないかと感じることがあります。本誌は、若い先生に向けた教育雑誌である側面もあることから、起こり得るガイドラインの弊害について、紙面を借りて若干の私見・愚見を述べたいと思います。

 最近のガイドライン趨勢の中で、医局内でのカンファランスで“ガイドライン”という言葉が飛び交うことが、以前に比べて多くなったように感じています。カンファランスの中で、個々の過去の経験だけで意見を言うことに比べれば、エビデンスレベルを知った上での若い先生の発言は、ある意味頼もしく思うこともあります。ただ、その発言が、ガイドラインの性質や背景を熟知した上での発言かどうかについて、些か疑問に感じることがあります。

 日常臨床では、ガイドラインのみで診療を完結することはできませんし、ガイドラインは時代とともに大きく変わります。ガイドラインはあくまでも、現時点でのエビデンスを元に作成された基準でしかなく、バイブルでも絶対的なものでもありません。いわば参考書にすぎません。深く考えることなく、すべてその通りに診療を行おうとすることは、教育的な観点からしても大きな危険性を孕んでいるのではないかと思います。特に若い先生がガイドラインに依存しすぎることにより、 若いうちに最も養わなくてはならない“創造力”の向上の大きな妨げになるのではないかと危惧しています。ガイドラインを尊重しつつも、自らが考え、新たなエビデンスを作り、新たなガイドラインの作成に貢献するような、質の高い診療や独創的な臨床研究を、私達自身が行うように日常診療の中で心がけることこそが、とても重要なことではないかと感じています。そのことが、私達個々の医療レベルを向上させ、医療の発展につながると信じてやまないからです。

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