ようこそ、福島医大泌尿器科へ
随想録
臨床泌尿器科編集後記Vol.70.No.3, 2016
先日NHKで、「10年後の未来へ 神戸と福島をつなぐ子どもたち」という番組が放送されました。今も避難生活が続く福島県浪江町の人が暮らす仮設住宅や、立ち入り制限が続く南相馬市を訪れた、神戸在住(阪神淡路大震災の被災地域)の小学生と、地元の小学生の交流を描いたドキュメンタリー番組でした。番組のなかで、地元の小学生の女の子が、同情してもらうことへの感謝の気持ちがある一方で、同情されてしまうことの複雑な心境を、涙を流しながら吐露する場面があり、心を打たれました。「彼女の涙は何色か?……..」神戸の小学校の先生が、子供たちに問いかけた一節です。
本年3月11日をもって東日本大震災から5年が経ちます。ご承知のとおり、福島県では震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、甚大な被害をうけました。いまだに故郷に帰還できない方々がたくさんいらっしゃいます。除染廃棄物や中間貯蔵施設の問題、放射線の健康リスクの問題は、すぐには結論がでそうもありません。そして、福島県に対する風評被害がいまだに続いています。
新聞報道でもありましたが、2015年国勢調査の速報値によると、福島県の人口は191万3606人で、2010年に行われた前回(202万9064人)から11万5458人(5.7%)減り、過去最大の減少幅を記録し、戦後最少となりました。減少しているのは、一般人のみではありません。多くの医療従事者も県外に流出し、人口当たりの医師数は、全国で2番目に少ない県となりました。特に太平洋側の地域(浜通り)の医療従事者不足は深刻で、医療サービスが悪化しないよう、医療従事者の皆さんが日々過酷な医療現場で奮闘されておられます。泌尿器科医も決して例外ではありません。私自身も、状況を打開できないことに大きな責任を感じ、心を痛める毎日です。
震災から5年が経った今、県外の人たちの震災や被災者に対する関心が薄れ、福島に対する理解度が不足していることが大きな問題だと言われています。この福島の現状を、自らの利益のみのために政治利用しようとする人たちをみると、悲しい気持ちになります。間違いなく福島(特に避難地域)の人々は、この未曽有の災害からの復興に向けて毎日必死に生きているのです。
冒頭で述べたドキュメンタリー番組の終わり、神戸に帰る小学生の電車のなかでの会話です。「あの子の涙の色、橙色やと思うわ。橙色ってあったかい感じするやん。」「私は透明やと思うわ。」温かく純粋無垢な心が、“ふくしま”の復興と明るい未来を後押ししてくれるような気がしてなりませんでした。