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随想録
臨床泌尿器科編集後記vol.73.No.7, 2019
本日5月1日、編集後記を書きながら令和元年を迎えています。この数日来、テレビのチャンネルをきりかえると、平成時代を振り返るテレビ番組が各局を賑わせています。
私が泌尿器科医になったのは、平成7年のことです。当時を振り返ると、泌尿器科の手術の中心はTUR-BT、TUR-P、ESWLで、根治的腎摘除術は月に1例ほど、根治的膀胱全摘除術は年に数例、根治的前立腺全摘除術はほとんどありませんでした。健診による画像検査やPSA検診などない時代でしたので、受診された時点で手術ができるような状況ではなかったことが理由だったような気がします。あらゆる診断は、患者さんの話を良く聴き、身体所見をきちんととった上で、尿検査、超音波検査、排泄性尿路造影が中心でした。前立腺生検も超音波を使わずに、生検針を指の上に置いて、直腸から石様硬の前立腺を目がけて行っていました。たまにある根治的前立腺全摘除術の時は、患者さんの股の間に入り、術野が全く見えない中で「鈎の引き方が悪い」「頭が邪魔だ」と先輩に怒鳴られていました。そう言えば、前立腺癌に対して“ホンバン○R”というエストロゲン製剤を使っていました。術前予防的抗菌薬投与などという概念もなく、術後の抗菌薬投与は1週間以上続け、術後に創が開くと「お前の手洗いの仕方が悪い!」と先輩に怒られました。過活動膀胱なんて概念もなく、下部尿路症状を主訴に受診される男性患者さんは、即座にすべて前立腺肥大症と診断されていました。カテーテル留置患者さんの膀胱洗浄はイソジンで行っていました。医療そのものだけではなく、医療安全や倫理に対する常識は今とは全く異なるものでした。本日令和時代の幕が開き、平成時代における医療の進歩や変化を思い感慨にひたっています。
当時は、泌尿器科医になると変わり者だと思われる時代でした。しかし特にここ数年、泌尿器科医を志す若者が年々増加傾向にあります。女性泌尿器科医も増えています。その多くは、泌尿器科の最大の魅力のひとつであるロボット支援手術などの先進的医療や、細分化されたサブスペシャリティへの憧れのようです。私達の時代とは隔世の感を禁じえません。数十年後には、令和の次の時代がやってくることでしょう。「昔はダ・ヴィンチなんて器械があってさ〜。当時はロボット支援手術なんてかっこよく言われていたけど、今じゃ考えられない時代だよね!」
さて超高度な技術革新の時代“令和”を駆け抜ける若い泌尿器科医は、いつの日か令和時代をいかに振り返るのでしょうか?