HOME随想録 > 臨床泌尿器科編集後記 vol.75. No10 ,2021

ようこそ、福島医大泌尿器科へ

随想録

臨床泌尿器科編集後記 vol.75. No10 ,2021

編集後記を執筆している今、東京オリンピックが終盤に差し掛かっています。コロナ禍での開催については賛否両論ありましたが、そんな議論も忘れ去られたかのように毎日熱戦が繰り広げられています。アスリートたちが“命を懸けて”闘う姿には凄まじさと美しさが共存しています。そしてオリンピックでは、時として金メダルよりも価値のある感動のドラマが生まれます。

競泳女子の池江璃花子選手は、2019年2月「白血病」と診断されたことを自ら公表しました。1年半後の2020年に予定されていた東京オリンピックにおいて、金メダルが確実視されていた池江選手が、東京オリンピック直前に突然の病魔に見舞われたことに、日本のみならず世界中に衝撃が走りました。そして何よりも人生をかけて東京オリンピックを見据えて努力を重ねてきた彼女にとって、病魔に見舞われたことのみならず、当時東京オリンピック出場の道が閉ざされたことは、「想像を絶する苦悩と絶望」に追いやられたことであろうと容易に想像できます。

抗がん剤治療を受けている彼女のTwitterにはこのように書かれています。「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです。三日間以上ご飯も食べれてない日が続いてます。でも負けたくない」私自身これまで多くの患者さんの治療に携わってきましたが、私たち医師は時として無力です。しかし彼女の言葉に、さぞ多くのがん患者さんが勇気づけられたことと思います。

東京オリンピックが1年延期されたこともあり、彼女は不撓不屈の精神で大復活を遂げ、オリンピックに出場できることになりました。計3種目に出場し、最後の女子400mメドレーリレーも結果は8位で、結局メダル獲得は叶いませんでした。「この数年間は本当につらかったし、人生のどん底に突き落とされて、ここまで戻ってくるのはすごく大変だったし。だけど、2大会連続でこの舞台に戻ってこられたっていうことは、自分自身にしっかり誇りを持っていけるなというふうに思います。」彼女の試合後のコメントです。私の年齢の半分にも満たない彼女が、「想像を絶する苦悩と絶望」に打ち勝ち、金メダルよりも価値のある美しく高貴で崇高なものを手に入れた瞬間ではないでしょうか。

さて、私が大変お世話になった尊敬する大先輩が、池江選手と同じ病魔に見舞われ、今まさに全力で闘っています。必ずや不撓不屈の精神で「想像を絶する苦悩と絶望」に打ち勝ち、病魔からの大復活を遂げてくれるものと信じています。

ページの先頭へ