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随想録

臨床泌尿器科編集後記 vol.75. No13 ,2021

中学生から高校生の時の私は、毎週金曜日夜8時からテレビに釘付けでした。私のお目当ては、「ワールドプロレスリング」“燃える闘魂 アントニオ猪木”でした。プロレスが“ショー”“八百長”と揶揄される時代に、「ストロングスタイル」を標榜し、目の前の敵のみならず、世間と戦い続け、「プロレスに市民権を」と熱く語っていたアントニオ猪木は、私のみならず、当時の若者の憧れの的であり強さの象徴でした。テレビの視聴率も20%を優に超えていました。40年近く前の話です。あの当時大きな試合はすべてビデオに録画し、その数は50本以上になりました。

高校生のときは、親からもらった昼食代を浮かせ、毎週発売される350円の雑誌「週刊ゴング」を買っていました。新日本プロレスの地方巡業にも行きました。若い皆さんには、アントニオ猪木と言えば、「元気ですかー!」「闘魂注入ビンタ」のイメージが強いと思いますが、近年の格闘技イベント「PRIDE」「K-1」「RIZIN」などの登場は、時のボクシング・ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリなどとの数々の異種格闘技戦が、その発端となっているのは間違いありません。

先日、彼の闘病生活に密着したドキュメンタリー番組「燃える闘魂 ラストスタンド〜アントニオ猪木 病床からのメッセージ〜」がNHK・BSプレミアムで放送されました。「全身性トランスサイレチンアミロイドーシス」と診断され、生死をさまよい続ける姿が生々しく放送されました。あの強くて逞しい姿は微塵もなく、やせ細り車いす生活を余儀なくされる弱々しい姿が映像に映し出され、胸が熱くなりました。「本当はこういう映像は見せたくなかったんですけどね。これも一つの強いイメージばっかりじゃなくて、こんなにも、もろい弱い。そういう一つの人間としてそういう場面があっても良かったのかなって。」

翌日、医局員の結婚式に出席しました。若い新郎新婦の幸せそうな姿と見ながらとても清々しい気分になりました。一方で、無邪気にはしゃいでいる若い医局員たちを傍目で見ながら、確実にゆっくりと自分が年を重ねていることを実感していました。しかし、ふとこのドキュメンタリー番組を思い出し、強さと弱さを合わせ持つアントニオ猪木の生き方に、40年前の憧れそのまま自分の今後の人生のひとつの道標になったような気がしていました。結婚式での幸せの御裾分けに加えて、何とも言えないある種の満足感に満たされながら、ほろ酔い気分で式場をあとにしました。

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