研究・学会活動
研究のテーマ
Laparoscopic/Robotic surgery Group(ラパロ/ロボットグループ)
腹腔鏡下腎摘除術
これまで行ってきた研究
・腹腔鏡下腎摘出術の手術侵襲;サイトカインを用いた評価
腹腔鏡下腎摘出術の手術侵襲の評価は、これまで食事や歩行開始の時期、鎮痛剤の使用回数など、開腹手術との比較で行いました。しかし、これらは手術以外の要因が関与する可能性があります。そこで、血液中のサイトカインであるインターロイキン‐6,-8,-10やC反応蛋白(CRP)を用いて、開腹手術との手術侵襲の評価を行いました。結果は、炎症性サイトカインとして知られているインターロイキン-6が開腹手術と比較して、明らかに低い値となっていました。このことにより、従来の開腹手術と比べ、客観的な指標においても、腹腔鏡手術は低侵襲であることを証明しました。
・透析患者さんの腹腔鏡下腎摘出術における、周術期の電解質の変化
透析を受けられている患者さんは、透析期間が長期になるにつれ、腎癌の発症リスクが増えることが知られています。近年これらの患者さんに対しても、鏡視下での腎摘出術を行っています。透析患者さんは、そうでない患者さんに比べ、手術侵襲により、電解質のバランスが崩れやすいことが予想されますが、これまで詳細に検討されたことはありませんでした。私たちの検討では、術中にカリウムを含まない点滴を使用していたのにもかかわらず、手術時間に相関するように術後のカリウムが上昇しました。この結果からは、従来行われているように、術後可及的速やかな血液浄化療法が必要であることを裏付ける研究結果となりました。
・患者さんの体型によって手術は難しくなるのか?
痩せている方より、太っている患者さんの方が手術は難しくなると言われています。また、体の小さな患者さんの方が、細かい操作が必要になり、手術は難しそうです。腹腔鏡下腎摘手術において、術前のCT検査などを用いて患者の体型と手術難易度の検討をおこないました。そうしたところ、患者さんの身長、皮下脂肪の厚さ、メタボリックシンドロームの指標の一つとされる腹囲やBMIなどとは関連せず、腎臓前面の脂肪がどれだけ厚いかによって手術の難しさが規定されるということが分かりました。現在、この指標を用いて、術者の選択などを行っています。
現在、これらの研究をさらに発展させながら、患者さんにより優しい術式の開発に取り組んでいます。
腹腔鏡下前立腺全摘除術
・腹腔鏡下前立腺全摘術後の尿失禁の評価;QOL質問票を用いた縦断的研究
腹腔鏡下手術は低侵襲な手術です。しかし、開腹手術と同様に、術後尿失禁でお悩みの患者さんがいらっしゃいます。尿失禁に関しては徐々に回復する場合がほとんどですが、回復の過程に個人差があります。質問票を用いて検討したところ、排尿状態の改善には約1年かかるという結果でした。この結果をもとにして、手術時における膀胱尿道吻合の新たな術式への取り組みや、術後早期から積極的に内服治療を導入することで、患者さんの早期の尿失禁改善に取り組んでいます。
・腹腔鏡下前立腺全摘術における前立腺生検の影響
前立腺癌の手術を行うのに際して、前立腺針生検によって癌細胞を証明することが必要不可欠です。前立腺生検によって、周囲の組織がダメージを受けると、周囲との癒着を生じ、手術が難しくなる可能性がありますが、開腹手術においては、前立腺生検や、前立腺生検時の局所麻酔が手術に影響はないことを、我々は証明たしました。しかし、より微細な手術操作が要求される、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術において果たして、前立腺生検が手術に影響を与えるかどうかに関してはわかっておらず、現在検討しています。
・患者さんの体型で手術は難しくなるのか?
男性は女性に比べて骨盤が狭く、その中に前立腺ははまりこむように存在しています。腹腔鏡下前立腺全摘術は、拡大視野で良好な視野が得られる半面、操作スペースが狭く、また、手術器具の挿入部位が限られるため、手術操作が時に困難な場面に遭遇します。術前のMRIを用いて評価したところ、狭い骨盤で、前立腺が奥にはまり込んでいるような前立腺や肥満が強い場合、また、前立腺が膀胱に飛び出しているような場合は、手術が困難となる傾向にあり、断端陽性率の上昇、出血量の増加や手術時間がかかるようでした。これらの検討をもとにして、時には開腹手術を行う場合もあり、患者さんに最も適した手術方法(オーダーメイドアプローチ)をご提示しています。