研究・学会活動
受賞報告
日本泌尿器腫瘍学会 第3回学術集会 学術集会奨励賞を受賞して
石橋 啓
このたび、東京都品川で開催されました、日本泌尿器腫瘍学会・第3回学術集会において私の発表いたしました演題、「腎癌におけるMET発現と分子標的耐性への関与」が学術集会奨励賞を受賞いたしましたのでご報告いたします。
本研究の遂行に当たっては、当教室の小島教授はじめ医局の先生方、特に臨床データー集積においては松岡香菜子さん、胡口智之くん、そしMET免疫染色では平木さんに多大なるご助力をいただきました。心より感謝致します。
本研究は、腎癌におけるMETの発現とTKI耐性との関わりについて解析したものです。これまで私たちは、腎癌のTKI耐性化に腎癌から分泌されるIL-6が関与している事を報告してまいりました(Oncotarget 2017)。しかし、それだけでは説明できない症例も多々ありました。そこで本研究では、IL-6以外の遺伝子として、腎癌におけるMET発現とTKI耐性の関連について解析いたしました。その結果、腎癌TKI耐性株におけるVEGF分泌にはIL-6の他にMETシグナルの関与が示唆され、臨床データーでもMET高発現症例は再発も多く、またMET低発現症例よりもTKIによる腫瘍縮小が少ない事もわかりました。その結果、MET高発現例での再発についてはTKIを用いるよりMET阻害作用のあるCabozantinibを使用する方が良いと考えられました。Cabozantinibは欧米では使用されておりますが、本邦では現時点ではまだ上市されておりません。しかし、今後非常に期待できる薬剤だと考えられます。
今回の日本泌尿器腫瘍学会は、私の他、小川先生と星先生で参加いたしました。一日半という短い会期に非常に充実した臨床・研究のセミナーが数多く企画されておりました。ポスター発表も分野ごとに同時にスタートしたのですが、どのセッションも盛んにディスカッションが行われておりました。正直なところ、前日に行われていた癌治療学会のデジタルポスターの部門と比較して、本学会のポスターセッションはかなり熱いセッションだったと感じました。
(参考写真:2018 癌治療学会 泌尿器科デジタルポスター)
そして企画されていたプログラムは非常に興味深いものばかりでした。
外来では腎癌で分子標的薬を処方することが多いのですが、「分子標的薬による肝障害とそのマネジメント」のセッションでは、内科のドクターからのお話がとても参考になり、また、埼玉医科大学国際医療センターでの、薬剤師さんを加えたチーム医療の話では非常に質の高い服薬指導と効率的な処方、有害事象のマネジメントが実現できると感じました。当院でも同様の仕組みができれば良いなと思いました。
「後腹膜腫瘍のマネジメントのシンポジウム」は放射線科医、病理医を交えたケーススタディで、倉敷中央病院の放射線科の小山先生は女性の腎尾側の嚢胞性腫瘍のCT写真一枚の腎レベルの結腸の圧排所見と血管の位置から粘液性嚢胞性腫瘍で生検の有用性は低いことなど、瞬時に喝破され、大いに盛り上がりました。放射線科を含めた他科とのカンファランスの重要性が強く感じられたセッションでした。
慶応大学の大家先生は、「腎細胞癌治療におけるTKIの意義と今後の課題」のセミナーお話しされておりました。大家先生はいつも、臨床で見られる現象を細胞レベルの解析にまで落とし込んでダイナミックに説明されるので、非常に勉強になります。話の途中で、ご自身の編集された『Renal Cell Carcinoma』が発売されたという宣伝も入れるのもご愛敬です。
そんな熱い学会であった中、今回学術集会奨励賞をいただけたことは、大変名誉なことで有り、そしてまた大きな励みになりました。
会員懇親会の場で表彰式がありました。「何か一言」と市川会長に言われましたので、「今後も腎癌の研究に励むために、大家先生の編集された『Renal Cell Carcinoma』を買って、勉強したいと思います。」と述べました。
すると大家先生が会場から「ありがとー!」と声かけしてくれました。表彰の後、私もご挨拶に向かったところ、大家先生は小島教授と「臨床泌尿器科」で一緒に仕事をしている関係か、「俺も君が受賞してくれてうれしいよ−!」というとてもうれしい言葉をかけてくださいました。隣にいた前田佳子先生には「『Renal Cell Carcinoma』は5冊買わないとダメよ。5冊!」と言われました。「は、はい!」と答えましたが、とりあえずAmazonで1冊だけオーダーしました。懇親会では、ほかに香川大学の筧先生、大阪大学の野々村先生、名古屋市立大学の安井先生などにも声をかけていただき、非常にうれしい夜となったのと同時にまた身が引き締まる思いでもありました。これからも、後輩医師とともにさらに腎癌研究に励んでいきたいと改めて思いました。その夜は、台風の影響で雨でしたが、品川の街の灯りがとてもまぶしく見えました。
追伸:大家先生、『Renal Cell Carcinoma』無事届きました。